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名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)1700号 判決 1975年8月25日

本訴原告(反訴被告)

中部管工事工業株式会社

本訴被告

嵯峨たづ子

外五名

本訴被告(反訴原告)

住田一義

主文

一、本訴被告たづ子、同紀代子、同正二、同健寿、同雅子、本訴被告会社は、本訴原告(反訴被告)に対し各自別紙第二目録記載の建物から退去して同建物を明渡せ。

二、本訴被告たづ子、同紀代子、同正二、同健寿、同雅子は、本訴原告(反訴被告)に対し別紙第三目録記載の各建物を収去して別紙第一目録記載の土地のうちの右各建物の敷地部分を明渡せ。

三、本訴被告会社は、本訴原告(反訴被告)に対し同第三目録記載の各建物から退去して右土地のうちの右各建物の敷地部分を明渡せ。

四、本訴被告(反訴原告)一義は、本訴原告(反訴被告)に対し右土地につき名古屋法務局古沢出張所昭和三二年三月六日受付第三、七三一号の所有権移転請求権保全仮登記および同出張所同日受付第三、七三〇号の抵当権設定登記ならびに同第二目録記載の建物につき同出張所同日受付第三、七三一号の所有権移転請求権保全仮登記および同出張所同日受付第三、七三〇号の抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

五、本訴被告たづ子、同紀代子、同正二、同健寿、同雅子(ただし、本訴被告たづ子は後記二四万円の三分の一につき、本訴被告紀代子、同正二、同健寿、同雅子はそれぞれ後記二四万円の六分の一につき)と本訴被告会社とは、連帯して本訴原告(反訴被告)に対し昭和三四年八月二一日から主文第一ないし第三項の各明渡がすべて完了するにいたるまで年二四万円の割合による金員を支払え。

六、本訴被告(反訴原告)一義の反訴にかかる第一次請求および第二次請求をいずれも棄却する。

七、本訴費用は、本訴被告らおよび本訴被告(反訴原告)一義の連帯負担とし、反訴費用は本訴被告(反訴原告)一義の負担とする。

八、この判決は、第一、第二、第三、第五項にかぎり、本訴原告(反訴被告)において本訴被告(反訴原告)一義を除くその余の本訴被告らのための共同担保として金三〇〇万円の担保を供するときは仮にこれを執行しうる。

事実

本訴原告(反訴被告)(以下単に原告という。)は、本訴につき主文第一ないし第五項同旨、および「本訴費用は本訴被告らおよび本訴被告(反訴原告)一義の負担とする。」との判決ならびに主文第一ないし第三項および同第五項につき仮執行の宣言を求め、反訴につき、主文第六項同旨および「反訴費用は本訴被告(反訴原告)一義(以下単に一義という)の負担とする。」との判決を求め、本訴被告たづ子、同紀代子、同正二、同健寿、同雅子(以下単に被告たづ子ら五名という)および本訴被告会社(以下単に被告会社という)は、本訴につき、「原告の本訴請求を棄却する。本訴費用は原告の負担とする。」との判決を求め、一義は、本訴につき「原告の本訴請求を棄却する。本訴費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき、第一次請求として、「原告は、一義に対し金二〇八万六、〇〇〇円と反訴状送達の日の翌日から右支払済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払え。反訴費用は原告の負担とする。」との判決を、予備的に、第二次請求として、「原告は、訴外萩原利尚との間で別紙第一目録記載の土地および同第二目録記載の建物につき名古屋法務局古沢出張所昭和三四年八月二〇日受付第一六、七七五号をもつてなされた各所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。反訴費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告は、本訴につき、左記請求原因を述べ、被告たづ子ら五名および被告会社の各抗弁を否認し、再抗弁として、嵯峨肇、原告間の当庁昭和三七年(ワ)第二〇六号事件の確定判決(甲第七号証の一、二)によつて右土地が原告の所有に属することが確定しているから、その既判力により、被告たづ子ら五名は原告に対し右土地の帰属につき争いえないものである、と述べ、一義の抗弁一ないし三をいずれも否認し、反訴第一次的および第二次的請求原因(以下単に反訴請求原因という)を否認する、と答弁し、反訴請求原因に対する抗弁として、仮に一義が肇に対しその主張のような貸付金債権を有するとしても、これらの債権はいずれも昭和三二年中に発生したものであるから、それから一〇年間の経過とともに時効によつて消滅した、と述べ、一義の時効中断の再抗弁を否認した。

(本訴請求原因)

一、別紙第一目録記載の土地および同第二目録記載の建物はもと被告たづ子ら五名の先代嵯峨肇の所有に属していた。

二、肇は昭和三一年一〇月二八日訴外萩原利尚代理人萩原荘也より金一〇〇万円を借用するにつき、右土地、建物につき代物弁済予約をなし、これを原因として利尚のため同年一一月一二日停止条件付所有権移転請求権保全仮登記を経由し、昭和三二年三月二二日頃これの完結権が行使されて右土地建物の所有権は利尚に移転し、これらにつき同月二五日、利尚のため右仮登記に基く所有権移転の本登記が経由された。そうでなくても昭和三四年八月一八日頃肇、利尚代理人荘也間で右の予約が確認され、その頃これが完結された。

三、原告は、同月二〇日利尚代理人荘也から右土地建物を代金一八〇万円で買受け、同日、原告のためこれらの所有権移転登記が経由された。

四、肇および被告会社は同日以降右建物の占有を継続中のところ肇は昭和四四年五月二日死亡し、相続により被告たづ子ら五名が肇の権利義務を承継(被告たづ子はその妻として三分の一、被告紀代子、同正二、同健寿、同雅子はその子として各六分の一づつ)した。

五、肇は、昭和三四年八月二〇日以降右土地上に別紙第三目録記載の各建物を所有してこれらの敷地の占有を継続中のところ、前同様の事由により被告たづ子ら五名が肇の権利義務を承継した。

六、被告会社は、右各建物を占拠してこれらの敷地を占有している。

七、別紙第一目録記載の土地および同第二目録記載の建物の昭和三四年八月二一日以降の賃料相当額は年二四万円を下らない。

八、一義は右土地および右建物につき、主文第四項掲記の各登記を経由しているが、この各登記は、前記のとおりこれらにつき利尚および原告の各登記が有効になされている以上、原告に対する関係で無効である。

九、そうでなくても、一義の右各登記の基礎とされた肇に対する債権は、仮にこれが存在したとしても、昭和三二年中に発生しているから一〇年の時効によつて消滅した。

被告たづ子ら五名および被告会社は、本訴に対する答弁として請求原因一は認める、同二のうち登記の点は認めるが、その余は否認する。尤も原告主張の昭和三一年一〇月二八日頃その主張の物件につき利尚のため代物弁済予約形式による清算を要する担保権が設定されたことはある、同三は否認する、同四ないし同六は認める、同七は争う、と答え、抗弁として次のとおり述べ原告の既判力の再抗弁を否認した。

(抗弁)

一、肇は、昭和三一年一〇月頃利尚代理人荘也から金一〇〇万円を、利息日歩三銭、弁済期の定めなく借り受け、これにつき、利尚代理人荘也に対し原告主張の土地建物を譲渡担保に供したのであるが、昭和三四年八月二〇日頃肇、利尚代理人荘也、原告代表者昇三三名が協議の上、右土地建物の所有名義を原告に移し、原告は肇のため利尚代理人荘也に対し一〇〇万円を代払いし、肇の利尚に対する利息は肇、利尚代理人荘也間で協定することにし、原告、肇間では肇において右一〇〇万円に対する銀行利率による利息をつけ、これらに対し肇において原告からの下請工事代金のうちから適時弁済する旨の債権者の交替による債務の更改をなした。そして、肇はその後原告に対し右一〇〇万円の弁済の提供をしており、また同額以上の原告に対する下請工事債権を有しているので、本訴請求は失当である。

二、そうでなくても、原告主張の代物弁済契約又はその予約は、肇の窮状に乗じてなされた著しい暴利行為であつて、公序良俗違反であつて無効であり、そうでなくても肇にはわずか一〇〇万円で右土地建物を手離す真意がなかつたのであるから、肇には要素の錯誤があつて、これにより無効である。

一義は、本訴請求原因に対する答弁として、請求原因一は認める、同二のうち登記の点は認めるが、その余は否認する、尤も昭和三一年一〇月二八日頃肇が利尚代理人荘也に対し原告主張の物件を担保に供したことはある、同三は否認する、同八のうち登記の点は認めるが、その余は否認する、同九のうち、原告主張の債権が三二年中に発生したことは認めるが、その余は否認する、と答え、抗弁および反訴第一次的および第二次的請求原因として、次のとおり述べ、原告の時効の抗弁に対し、一義の肇に対する貸付金債権の発生時の主張は認める、と述べ、再抗弁として、肇又はその承継人被告たづ子ら五名は、右債権につき、毎月債務の承認をしているから、時効はその都度中断されている、と述べた。

(抗弁)

一、別紙第一目録記載の土地、同第二目録記載の建物は昭和三一年一一月一二日頃当時すでに六〇〇万円以上のものであつたから、利尚代理人荘也において僅か一〇〇万円の肇に対する貸金につき、その頃これを担保にとつた上、昭和三二年三月二二日頃、又は、昭和三四年八月一八日頃代物弁済により右物件を取得するに由なく、仮にそのような契約がなされたとしても、これは公序良俗に違反して無効であり、又は、この契約を基礎とする原告の本訴請求は権利の濫用であつて許されない。

二、そうでなくても、昭和三二年三月二二日頃利尚代理人荘也と肇との間でなされた代物弁済契約は、肇に対する一義やその他の債権者の追求を免れるため、利尚代理人荘也と肇とが通謀してなした虚偽表示であり、また、昭和三四年八月二〇日頃利尚代理人荘也と原告との間でなされた売買契約は、前同様の追求を免れるため、肇、利尚代理人荘也、原告の三者が通謀してなした虚偽表示であつて、いずれも無効である。

三、そうでなくても、被告たづ子ら五名および被告会社の抗弁一の更改がなされたから、同抗弁のとおり原告は右土地建物につき所有権を取得していないものである。

(反訴第一次的および第二次的請求原因)

一、一義は昭和三二年頃肇に対し合計二五八万六、〇〇〇円を貸付け、同額の貸付金債権を有するところ、原告は、このことを知り、右債権が害されるのを知りながら、昭和三四年八月頃利尚代理人荘也から僅か一八〇万円で右土地建物の所有権を取得し、その結果少なくとも右債権のうちの抵当権付債権五〇万円を除く二〇八万六、〇〇〇円の債権を無に帰せしめたものであるから、原告は不法行為者として一義に対し二〇八万六、〇〇〇円とこれの遅延損害金を支払うべき義務がある。

二、そうでなくても、前記抗弁のとおり更改がなされ、原告は肇に対し一〇〇万円とこれの銀行利率による利息債権しか有しないものであるから、若し原告において右土地、建物をその弁済のために取得したとするならば、原告は肇に対し右物件の価額との差額二〇八万六、〇〇〇円以上の金員を不当利得金又は清算金として返還すべきものであり、一義は前記のように肇(又はその承継人)に対して債権を有するから一義は自已の債権を保全するため無資力な肇又はその承継人に代位して原告に対し金二〇八万六、〇〇〇円とこれの遅延損害金の支払を求める。

三、一義の前記抗弁一のとおり肇と利尚代理人荘也との間の代物弁済契約は公序良俗違反により無効であり、そうでなくても、同抗弁二のとおり、原告のための各所有権移転登記の原因となつた売買契約および、その前提となる代物弁済契約はいずれも無効であるところ、一義は肇に対し昭和三二年三月に五〇万円を貸付け、これを担保するため右土地、建物につき抵当権を有するものであるから、一義はこの抵当権に基き原告に対し原告のために右土地建物につきなされた各所有権移転登記の各抹消登記手続を求める。

証拠関係(省略)

別紙

第一目録

名古屋市熱田区横田町二丁目一三番

一 宅地 四五二・八九平方メートル(一三七坪)

右土地の仮換地

熱田三工区一九Aブロツク八番

一 宅地 三二六・六一平方メートル(九八坪八〇)

以上

第二目録

名古屋市熱田区横田町二丁目一三番地

家屋番号同丁一三番

一 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅

床面積 二六・四四平方メートル(八坪)

以上

第三目録

名古屋市熱田区横田町二丁目一三番地

家屋番号同丁一三番の二

一 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場

床面積 二三・一四平方メートル(七坪)

同所同番地

家屋番号同丁一三番の三

一 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建工場

床面積 一階 四二・九七平方メートル(一三坪)

二階 五三・七一平方メートル(一六坪二五)

同所同番地

家屋番号同丁一三番の四

一 鉄骨造陸屋根二階建事務所付倉庫

床面積 一階 六二・八〇平方メートル(一九坪)

二階 同平方メートル(同坪)

附属建物

一 鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建工場

床面積 一〇五・七八平方メートル(三二坪)

二 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場

床面積 一三・二二平方メートル(四坪)

以上

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